こんにちは!
今回は犬の乳腺腫瘍についてお話ししたいと思います。

<はじめに>
乳腺腫瘍は人でもよく耳にする名前で、乳腺組織から発生する腫瘍全般のことを指します。ホルモンの暴露などが大きく関与しているため、特に未避妊の雌で多く遭遇する腫瘍です。

最初は小さなしこりが発生し、小さいままずっと悪さをしない場合もありますし、反対に大きくなってきて浸潤や転移などの悪性挙動をとり命を落とす場合もあります。

犬の乳腺腫瘍はサイズが大きくなるに従って悪性の割合が高くなることがわかっているため、腫瘍が小さいうちに切除することが望まれます。
基本的には外科切除が治療法となり、組織病理検査によって良性・悪性を評価します。

<手術法>
犬の乳腺は左右にそれぞれ帯のように存在し、左右各4〜5個の乳頭があります。
発生した腫瘍の場所・大きさ、周りのリンパ節の状態、本人の全身状況などを考慮してどの範囲を切除するかをご相談しながら決めます

<悪性の場合>
良性の場合は外科切除によって根治します。
悪性の場合ですが、ひとえに悪性と言っても「悪性度」には大きく幅があります。
悪性度が低いタイプのものであれば、完全切除で根治が期待できる場合があります。
もちろん、悪性度が高いタイプのものであれば、完全切除ができていたとしても、その後遠隔転移が起きて亡くなってしまう場合もあります。

悪性度が高く遠隔転移が今後予想される場合や、すでにリンパ節や遠隔転移が起きている場合には、全身療法(抗がん剤治療)を検討します。
ただ、抗がん剤治療が確実に効果があるということはまだ示されていないため、よくご相談しながら治療をするか決めていきます。


当院での治療をご紹介します。
14歳、未避妊のミニチュアダックスの子で、以前からあった乳腺部のしこりが大きくなってきて、なんとかしてあげたいとの事で来院されました。

上が頭側、下が尻尾側です

右と左にそれぞれ大きなしこりがあり、その間にも小さなしこりがありました。
細胞診検査を行って乳腺腫瘍の可能性が高いことがわかりました。
全身的な検査では心臓や内臓に大きな問題は見つかりませんでした。

しこりがかなり大きくなると、今後その一部が弾けて出血したり、感染して全身状況も悪くなるケースがあります。さらに本人も大きいしこりによって歩きにくかったりするため、それらを改善する目的も大いにあります。
今回は腫瘍自体の治療ももちろんですが、そのような生活の質を向上させることも手術の大事な目的となります。
ご家族の方も、今後の生活のためにもできれば取ってあげたいという思いでしたので、手術によって切除することになりました。

両側第3〜4乳頭を腫瘍と一緒に切除しました。
手術は無事に終わり、術後も順調に回復し2日後に退院しました。

術後14日目に抜糸を行いました。皮膚の状態も良好です。
本人も大きな腫瘍がなくなって快適に生活できているとのことです!

そして、切除した腫瘍の病理組織検査の結果ですが、右側に発生した大きな腫瘍は良性で、左側に発生したものが悪性でした。
ただ幸いなことに、悪性の中でも悪性度は低いタイプでしたので、完全切除によって良好な予後が期待できるという診断です。
もちろん、悪性であることに変わりはなく今後遠隔転移などが起きないとは言い切れません。定期的な検診をしながら経過観察していくことになります。
また、第1〜2の乳腺部は残っていますので、新たにしこりが発生しないか見ていく必要があります。

<発生予防>
乳腺腫瘍の発生率と避妊手術は関連性があり、初回の発情前で避妊手術を行うと
発生率は0.5%まで下がると言われております。乳腺腫瘍や子宮の病気の予防という意味では避妊手術は有効といえるでしょう。

お腹にできる「しこり」は乳腺腫瘍だけではありませんので、しこりなどを発見したら早めにご相談されることをおすすめします。