こんにちは、院長の田中です。
まだまだ寒い日もありますが、少しずつ春らしさを感じる季節になりましたね!
さて今回はシニアの子の乳腺腫瘍のお話です。
乳腺腫瘍はサイズが大きくなるにつれて悪性の確率が高くなることがわかっている腫瘍です。
ただしシニアの子の場合、すでに基礎疾患があったりと麻酔の心配を伴うこともあるため、ご家族の方が手術をしたら良いか迷われることがしばしばあります。
当院で治療を実施した子のご紹介をしつつ、そのような悩みの解決の一助となれば嬉しく思います。
この子は15歳のトイプードルの女の子(未避妊)で、乳腺部の複数のしこりと右足のしこりについてセカンドオピニオンでいらっしゃいました。
かかりつけの病院さんでは高齢の為治療が難しいとのことで、乳腺部のしこりが急速に大きくなってきて心配になられていました。年齢も考えると手術をしたら良いか迷っているご様子でした。
さらに、最近では空咳も出るようになったということでした。



写真からも見てとれるように、最も下腹のしこりがボコッと大きくなっていました。
診断や悪性度の評価をする上で細胞診を実施し、上記のしこりはやはり「悪性の乳腺腫瘍」を疑う所見でした。
右足のしこりも同時に細胞診を実施し、異なる腫瘍の「肥満細胞腫」ということが判明しました。
いずれも治療をするには第一選択が外科切除ということになります。
もし外科切除するとした場合、その目的を明確にする必要があります。
今回のケースは「腫瘍の治療と確定診断」とともに、「今後起きるであろう腫瘍の破裂・出血・感染を阻止する」「腫瘍からの痛みを取り除く」といった「生活の質(QOL)の改善」も非常に重要になります。
そこで麻酔可能か判断するために、血液検査・レントゲン・心臓エコーを実施しました(身体検査にて心臓に雑音が確認)。
血液検査では腎機能の軽度低下、心臓検査にて中等度の弁膜症が認められました。
ご家族の方とよく相談し、心臓保護の内服をスタートし、その経過をみつつ再度手術をするか検討することになりました。
内服を1ヶ月継続し来院され、咳が少し軽減してきたが、しこりがさらに大きくなってきたとのことで、改めてご相談をして手術をご希望されました。
高齢で上記の基礎疾患がありますが、現時点でのこの子の状態であれば、循環状態を改善し心臓保護薬を使用しながら実施すれば全身麻酔も可能と判断しました。
無論、元気で基礎疾患のない子に比べれば術中・術後のリスクは高くなりますので、より慎重に状態を管理していかなければなりません。
以下は手術所見です(苦手な方は飛ばしてくださいね)。
麻酔管理に細心の注意を払い、麻酔時間が長くならないように慎重かつ迅速的に切除しました。



鎮痛剤も複数使いながら痛みを感じさせないように実施しています(マルチモーダル鎮痛)。
麻酔から目が醒めた後も慎重に経過をみていきます。
術後の経過が順調で翌日に退院することができました。ただし、まだまだ不安定な時期ですので2週後の抜糸までは注意深く見ていく必要があります。
その間何度か来院され全身チェックや術創チェックを行いましたが、無事に抜糸を終えることができました。

皮膚の状態も良く、腫瘍も取り除かれてスッキリしました。
その頃には食欲も増加して体重も少しずつ増えてきました。引き続き腎臓や心臓のケアをしつつ、この子ができる限り快適に過ごしていけるようサポートしていきます。
以上のように、当院ではシニア〜超高齢の子の腫瘍・外科手術のご相談も随時受け付けております。
ただし、中には基礎疾患の状態が芳しくなく、術前検査の評価で全身麻酔をかけるのが厳しいということもあります。
その際は外科治療以外になにをしてあげられるかを考え提案していきます(外科手術をご希望されない方にも同様に別の方法を提案します)。
困っていることがあれば遠慮なくご相談くださいね!